CAD/CAMの歯学博士が教えるデジタル歯科医療
皆様こんにちは!
最後はIOS導入による、歯科技工のワークフローの変化とメリットについてお話しします。
IOS導入によるメリットは大きいところで以下の3つです。
①経時的な寸法変化が無い
②患者様、スタッフの負担軽減
③材料費・技工料金の削減
①経時的な寸法変化が無い
皆様は、歯科医院で型取り(印象採得といいます)をした経験はありますか?
従来の方法だと、ピンク色の粘土みたいな材料(アルジネート)を口の中に入れて歯に圧接することで型をとっていました。患者様が大変なことも問題ですが、何より重要なことが経時的な寸法変化量が大きい点です。
アルジネート印象の場合、型取りをした後にすぐに石膏を注がないと容易に変形します。
ただ、治療しながら、合間ですぐに石膏を注ぐことは中々難しく、ほとんどの歯科医院で、型取りした印象体をまとめてどこかに保管し、午前や午後の診療終わりで纏めて石膏を注ぐようにしています。
印象体を水中保管した場合、吸水膨張し1時間でおよそ70〜80μm変形します。
空気中に置いておいた場合は、1時間で100μmほど縮みます。離液といいます。
一番良い保管方法として、保湿箱などに入れて湿潤下で保管する方法が推奨されていますが、そうしたとしても1時間で20〜30μm程変形します。
30μmくらい大したことないと思うかもしれませんが、歯科治療において30μmの誤差はかなり大きく、結果として被せ物を装着する際に調整が必要になります。
IOSによる型取りは、光学印象といいます。コピー機と同じで、光でスキャンするので、IOSの場合、上述したような寸法変化は一切ありません。デジタルデータですから、どれだけ放っておいても変形しません。
従来のアナログ技工の場合は、どうしても上述のような寸法変化があります。
一例として
・印象採得時の寸法変化を挙げましたが、他にも
・石膏の効果膨張による変形
・咬合器装着時の浮き上がり(実はこれが結構、被せ物が過高になる原因として大きい。マウンティングストーンは結構膨張する。)
・埋没材の変形
・鋳造時の金属の収縮
等、従来のアナログ技工の場合、色々なポイントで寸法変化します。
そのため、実際仕上がった被せ物は、患者様のお口の中に装着する際、どうしても調整が必要になります。
デジタル技工の場合上記の寸法変化は一切ありません。
即ち高精度、患者様の口腔内へ無調整で装着することが可能です。
寸法変化に限らず、デジタルデータを扱うので、石膏模型を削る等、データそのものに人の手が介在することがなくなるので、テクニカルエラー(ヒューマンエラー)の発生確率をグッと抑えることができるのも良い点です。
②患者様、スタッフの負担軽減
アルジネート印象ではなく、光で型取りするので、特に嘔吐反射がある患者様等、楽に印象採得することが可能です。
アナログ技工の場合、アルジネートだけではなく、より高精度の材料だとシリコーン印象材があります。
シリコーン印象材は高精度ですが、硬化まで5分程かかります。上下の型取りだけで10分程お口を開いた状態が続くので患者様が大変です。
また、印象体を撤去する際に結構力が必要で、患者様が大変です。
光学スキャンであれば、上下合わせて2,3分でスキャンが終わりますし、材料を撤去することもないので、かなり患者様の負担を軽減することができます。
また、アナログ技工だと、型取りした後にクリニックで石膏を注いで模型を作ってから、ラボへ発送、またはラボの方にクリニックへ模型を取りに来ていただいていましたが、これらの工程が、デジタル技工であれば全てカットできます。
取得したデジタルデータは、そのままラボへデータ送信すれば、その時点で納品となり、補綴装置の製作がスタートします。
③材料費・技工料金の削減
これはクリニック側の話になりますが、流動経費を著しく削減できます。
シリコーン印象材料がそもそも必要ないので、購入しなくて済みます。
デジタルスキャンでかかる経費といったら電気代くらいです(微々たるものです)。
また、石膏模型を起こさなくて済む分、ラボによるかとは思いますが、基本的に
技工料金も安くなります。
また、デジタルデータなので、データの保管が楽です。石膏模型の保管の場合は専用の保管棚が必要でしたが、デジタルデータの保管はPCがあればいいので、取扱もとても楽になります。
他にも、当院で導入したMEDIT i700の場合、追加で様々なアプリケーションを入れることができます。
例えば、先日お話ししたマウスピース矯正のシュミレーションを行うこともできますし、咬合分析(どこで噛んでいるか検査する)や形成量(クリアランス)の確認、ダブルスキャンテクニック(削る前の歯をスキャンしておいて、削った後のスキャンデータと重ね合わせて元々の歯と全く同じ形態の修復物を作成)することもできます。スマイルデザインの設計もできますし、PLY形式で色付きのデータをお見せすることもできます。それに伴い、簡易的ですがシェードテイクを行うこともできます。
挙げていくとキリがありません(笑)
私が口腔内スキャナを初めて触ったのがおよそ10年程前で、それこそまだ日本に入ってきて間もなく、臨床応用がほとんどされていませんでした。
それが、今や大分臨床の現場へ浸透してきています。
現状では、口腔内スキャナによるデジタルデンティストリーは自由診療に限られますが、今後はさらに歯科のデジタル化が進んでいくことでしょう。
IOSの導入は歯科の中でも革命的なことでした。
今後の歯科医療の発展が楽しみです!
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